第24回 日本新聞協会編「NIEニュース」第4号(1995年12月)発行
私はこの4号のフロントページを読んで、加藤典夫先生の実践の素晴らしさを感じると共にNIEには無限の可能性があると考えたのでした。
この時私は国内の小学校でのNIEの実践に触れると共に、2回のアメリカNIE授業視察、オーストラリア・スウェーデン・ノルウェー・イギリスでの授業視察を行っています。また、スウェーデン・ストックホルムで2家族のファミリーフォーカス(家族で学び合うNIE)に触れることができました。しかし、加藤先生が行っているような実践に触れることは初めてのことでした。私が考えていた「どこでもNIE」は限定的なことであったと認識したのでした。
加藤典夫先生の実践を引用します。
「新聞の授業楽しかった」というのが、NIEの授業を経験した生徒の感想であり、私の感想でもあります。
生徒たちは、テレビは障がいの程度にかかわらず毎日見ており、見た番組の内容は個人差がみられますがそれなりに理解し、覚えています。それに対し新聞は、生徒のまわりの環境が、知的な障がいを持っている子には難しいのではないかという思いこみもあり、あまり新聞に接するのに積極的な環境にあるとはいえません。どうしてもスイッチを入れるだけで、簡単に楽しく見られるテレビに親しむ環境にあると思われます。
そこで、NIEの授業を通して、生徒たちに新聞に触れたり目を通す機会をつくり、そのなかで活用の仕方を身につけていくことができるのではないかと考えました。
生徒たちは、NIEの授業の時間を「新聞の時間」といって楽しみにしていました。字が読めなくても写真からいろいろな情報を感じ取り、戦争の写真見れば「ダメ」、「かわいそう」、「こんなんしたらあかん」などと反応し、記事が読めなくても写真を通じて最低限の内容を把握しているのに驚きました。
天気予報は、毎回授業で取り上げましたが、晴れ、雨などの絵マークはわかりやすく、日常生活で活用できる情報になっていました。降水確率は数字ではなく、グラフ化してある方がより理解しやすく、また、健常の人がパッと見てわかりやすいものは、障がいを有する生徒たちにもわかりやすいようです。ある程度文字が読める生徒は、いろいろなページを見ながら自分の興味ある記事を選んでじっくり読んでいました。ひとつの記事を最後まで正しく切り抜くことははなかなか難しく、記事の途中で切り取ってしまうこともよくありましたが、これは新聞記事自体の構成と関係があると思われます。
また、記事を読んで自分の感想、意見を書くことを続けていると、例えば、戦争の記事を読んで、「戦争はいけない」、あるいは「戦争を早くやめて下さい」という感想を書いていたのが、「戦争をすると食べる物もなく、住む家もなくした子どもたちや老人が増えます。だから、戦争を早くやめてほしいと思います」と、より踏み込んだ感想を持つようになりました。
NIEの授業では新聞社から新聞記者の方が学校に来て話していただけます。
我が校にも、日本新聞協会から来ていただき、わかりやすく新聞についてのお話をしていただきました。生徒たちも興味深く聞いていました。質問コーナーでは、四つ切の画用紙を持ってきて、「この大きさの広告を載せるといくらお金がかかりますか」とか、「事件はどうやってわかりますか」、「テレビ欄は、どの新聞でも一番後ろですか」、「夕刊はいつ作っていますか」など質問が相次ぎました。
知的な障がいを有している生徒たちには、新聞の活用は難しいのではないか、という意見があるなかでのNIEの授業実践でした。文字が読めるものは記事を読み、あるいは見出しや写真から記事の内容を推測する者など、各自がそれなりに新聞を活用し、情報を得ていました。
これからも、学校生活において生徒たちが気楽に新聞に接することができる環境作りに励み、新聞の活用を図っていきたいと思います。
【2~3頁】
「広がるNIE活動 40都道府県112校でパイロット計画実施」
以下のように記述されています・
「1995年度NIEパイロット計画の実践校は、前年度に比べ46校増えて40都道府県112校に拡大した。一方、東京、大阪、新潟で独自に実践されている研究助成も36校に増え、パイロット計画と合わせると新聞協会がNIE活動の一環として新聞を提供している学校は以下のとおり148校に上っている。(後略)」
この段階でパイロット計画を実施していない県は、千葉・山梨・石川・兵庫・大分・長崎・沖縄の7県でした。新聞界の事情なのか、教育界の事情なのか知りたくなります。兵庫は神戸新聞が熱心に取り組んでいて1995年以前に私は訪ねたことがありました。阪神・淡路大震災の影響でしょうか。あの訪問した神戸新聞社が地震により大きな影響を受けたことを写真で知りました。
【4~5頁】
「NIEパイロット実践者座談会 NIEに取り組んで」
「実際に新聞を提供して授業で活用してもらう『NIEパイロット計画』を新聞協会が開始して今年で7年目を迎える。1989年度から、東京の小、中3校で始まったパイロット計画は、今年度には全国で40都道府県112校にまで拡大した。ここでは、各地のパイロット計画実践者4人に集まっていただき、新聞の具体的な活用方法、NIEの効果などについて話していただきました。」
【6頁】
「欧州のNIE授業を視察して」
「国際新聞発行者協会(FIEJ)は、9月14、15の両日、スウェーデンのストックホルムで『子どもの権利』をテーマに初の国際NIE大会を開催した。新聞協会は大会に合わせ、9月12日から22日まで『欧州NIE事情視察団』を派遣。スウェーデンのほか、ノルウェー、英国のNIE事情を視察した。
同視察団に参加した岸尾祐二先生に、欧州NIE視察の感想を寄せてもらった。
ストックホルムのヘルスコーラン小学校では、ハンセン先生の5年生19人の授業を見た。まず、2人の子どもが、最近関心を持ったスウェーデンと世界のニュースを世界地図で場所を示しながら発表した。発表の決まりとして、自国と世界のニュースを取り上げることになっており、小学校から世界に目を向けさせる姿勢がみられた。
次に子どもたちは、最近の新聞から関心を持ち、4、5週間かけて調べるテーマを探す活動に入った。よく訓練されているのか、一人ひとり自分なりの読み方をしていた。子どもたち一人ひとり発表したテーマは、プレスリー、エイズ、映画の暴力シーン、ボクシングのブルーノ、きのこ、フランスの核実験など多様である。これから子どもたちは、他の新聞、テレビ、図書などを活用して、自分のテーマを調べ親も含めての発表会を持つという。
ハンセン先生は、他の学校の先生にもNIEを教えている。力がある先生がNIEの初心者である先生を指導するシステムは、ノルウェーでも行われている。これについては3年前、サンフランシスコで開かれた「国際NIEの日」大会で、ノルウェー新聞協会のステイン氏からうかがっていた。
そのノルウェー・オスロのカンペン初等学校では、8年生(日本の中学2年)30人の授業を見た。このカンペン初等学校には、20か国以上の移民の子弟が在籍している。ヘクトエン先生による授業は、新聞界が作成した子どもが書き込めるようになっているメディア教育のための学習書を活用して進められていた。1つの出来事でも違った書き方をしている2つの記事を通して、読み比べの大切さを学ぶ。そして、新聞記事を読むことがノルウェー語の学習にもつながっているのである。
英国・バーミンガムのボルドメーア幼児学校(4~7歳)では、授業を見ることはできなかったが、家族ぐるみで取り組むファミリーフォーカスの実践について、親や子ども(卒業した7、8歳の子どもたち)の話を聞くことができた。天気とかスポーツとかテーマごとの切り抜き帳、写真や記事で絵を作るなどの作品作りに親子で取り組むのである。ある母親は「せいぜいマンガを見るくらいだったのが、天気・スポーツ・一面と社会の事に関心を持つようになった」と言う。どんなところが面白かったか、子どもたちに聞くと「言葉をひろって新聞につける」「天気予報図を作ること」「スポーツの写真や記事をはること」というような答えが返ってきた。
スウェーデン、ノルウェー、英国のNIEを支えているのは、新聞社のコーディネーターである。米国でも同じである。今回、各国のNIE事情を丁寧に説明してくださったストックホルムNIE委員会事務局長ラドマーク氏、ノルウェー新聞協会NIE担当部長ステイン氏、英国地方新聞協会NIE担当部長ケリー氏はコーディネーターを指導しながら、楽しい学習材を作成している。3人とも若くて活動的である。
このようなシステムは、日本のNIEでも大いに学びたいところである。
【6~7頁】
「各地でNIE研究会開催」
【8頁】
「高校新聞白書を刊行」
NIE日誌(1995年7月~1995年11月)
編集後記
(社)日本新聞協会とは