第25回 日本新聞協会「NIEニュース」第5号(1996年3月)、「NIEニュース」第6号(1996年7月)発行
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フロントページでは日本新聞協会 NIE委員会委員長、中国新聞社 代表取締社長山本治郎氏が「NIE活動の発展目指す 4月から新事業を開始」の見出しで、日本新聞協会の今後の事業を提起されました。
「NIE活動の発展目指す 4月から新事業を開始」
NIE基金の設立と推進事業
日本新聞協会NIE委員会ではこのほど、教育に新聞を活用していただくNIE活動の一層の充実を図るため「NIE基金」を創設し、1996年度から、基金に基づく新しいNIE推進事業を展開することを決定しました。
日本新聞協会は、実際に新聞を教室に届けて先生方に教材として活用して頂くNIEパイロット計画を、1989年から東京の小、中学校3校で開始しました。その後、実践校は次第に増え、95年度には40都道府県112校に達し、この間、貴重な実践が蓄積され、多くの成果を上げることができました。NIE委員会ではこうした経緯を踏まえ、基金の下で新しいNIE推進事業を進めていくことにいたしました。
NIE推進事業は、この基金を基にして、「研究・PR事業」と「新聞提供事業」の日本柱で諸活動が行われます。
このうち研究・PR事業はこれまで発行していた「NIEニュース」や「実践報告書」をさらに充実するほか、NIEに関する補助教材の開発なども手がけていくことにしています。
さらに、先生方や新聞社のNIE担当者を一堂に集めたNIE全国大会の開催や各地で先生方を対象に行われる実践発表会やシンポジウム等に、補助金を支出することにしています。また、NIEを実践されている先生方の養成を目的とした、海外派遣に際しても補助することを考えています。これら研究・PR事業は、これまで十分行えなかった分野であり、一層の拡充に努めていきたいと考えています。
全国の実践校400校を目標に
従来のパイロット計画に代わるものが、新聞提供事業です。これまでは、新聞を提供してNIE活動を実践していただく実践校の上限枠を一都府県につき3校(北海道は4校)としていました。これを、今後5年間かけて、全国の学校総数の約1パーセントに当たる400校を目標に実践校を増やしていきたいと考えています。
このため、地域のNIE推進組織に教育界の代表にも参加していただき、各地で「NIE推進協議会」を設立していただくことにしました。新聞提供事業は、この組織を中心に展開することとし、地域の自主性を発揮していただくことにしました。
また、多様な新聞に接していただくため、その地域で購読できる新聞をなるべく平等に講読していただくことにしています。実践される先生方には、新聞販売店に直接、新聞を注文していただくなど、これまでの新聞提供とは大きく異なりますが、ご協力をお願いいたします。
NIE活動は、新聞に親しむことで文字をよむことの基礎を学び、さらに社会と主体的にかかわっていく子どもたちの育成を目的としています。米国と比べ、まだ歴史の浅い日本のNIEですが、着実に成果をあげてきています。新しい事業の展開によって、さらに多くの先生方が実践に取り組まれ、それによってNIEの輪が広がり、将来に向けてよりよい読者が一人でも多く育つことを願っています。今後とも、教育界ならびに新聞界の関係各位一層のご協力をお願いいたします。
日本新聞協会の今後のNIE方針が極めて明確に具体的に述べられています。私は当時この原稿に触れ、今後の日本のNIEはどこまで発展していくのか期待に胸を膨らませた記憶が残っています。
キーワードは「NIE基金」「NIE補助教材の開発」「NIE全国大会」「各地での実践発表会・シンポジウムに補助」「海外派遣に補助」「今後5年間かけて、全国の学校総数の約1パーセントに当たる400校を目標に実践校を増やす」「各地にNIE推進協議会の設立」「NIEの輪の広がり」でした。
1996年7月には初めてのNIE全国大会が東京で開かれました(次回第26回でご紹介致します)。1996年は日本のNIE発展の第3期に突入したというのが私の認識です。
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「実践校はいま 福井県」
「東京の小・中学校でワークショップ開催」
「茨城県パイロット報告会を開催」
「新潟でNIEコーディネーター懇談会」
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「新聞Q&A」
NIEには、新聞を活用するほか、メディアのひとつである新聞そのものについて勉強する側面もあります。その一環として、新聞・通信社の記者が学校を訪れ新聞について説明してきました。そのたびに、子どもたちから難問・奇問を浴びせられてきましたが、こうした経験を踏まえ、新聞協会では、記者が学校で新聞や新聞社について説明する際の手引書「新聞Q&A」を作成しました。新聞の役割や取材方法、原稿の書き方、などを簡単に説明したものです。ここでは、その一部をご紹介します。
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「情熱ひしひし ツルの里のNIE」(鹿児島県)
チームティ―チングに参加して
南日本新聞社文化部 久本勝紘氏
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「新聞博物館2000年に開館へ NIE活動の拠点に」
新聞協会はこのほど、横浜市・関内地区に、2000年をめどに「新聞博物館」(仮称)を開館すると発表した。新聞博物館は、日刊新聞発祥の地、横浜に建設される情報文化センター(仮称)内に入る。従来型の博物館にとどまらず、来館者が最新ニュースを読んだり、これまで報道された紙面を集積した紙面ライブラリーで記事を検索したり、自分で新聞を作ったりできる「メディア情報館」を目指している。同博物館にはNIEセンターも設けられ、全国のNIE活動の拠点となる予定。センターには、NIEを体験できる模擬教室のほか、新聞閲覧コーナー、教師のNIE実践に関する相談に答えるNIE相談コーナーなどが設置されることになっている。
「新聞社対象のNIEセミナーを開催」
NIE日誌(1995年12月~1996年2月)
編集後記
(社)日本新聞協会とは
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「多くの学校で成果 昨年度アンケート」
フロントページは「多くの学校で成果 昨年度アンケート」のタイトルでアンケート結果を掲載しています。NIEでどのような成果があったかの検証はとても大切です。
内容の概略を引用して紹介致します。
実践した教科
教科では、社会科、選択社会科での実践が最も多く、国語科がそれに次ぎ、英語科、理科、技術・家庭科、美術科、保健体育、養護学校・学級などで幅広く活用されています。
実践の内容
最も多かったのは、記事を切り抜き、要約、感想などを添える「新聞スクラップノート」。要約・感想を朝の会で発表する。新聞の切り抜きを素材にした「個人(グループ)新聞作り」。「紙面比較」「ディベート」「白地図に出来事の起こった地名・出来事の要約を書き込む」「新聞広告を切り抜き、カタログを作る」「マンガの吹き出しを空白にして自由に記述」。授業で扱ったあるいは生徒が選んだテーマは「環境破壊」「オウム真理教」「阪神大震災」「戦後50年」「仏・中の核実験」「いじめ」「沖縄基地問題」などが多く、「世界女性会議」「HIV訴訟」「女子学生の就職難」「夫婦別姓」など比較的硬派のテーマが見られました。
成果・反応
成果として最も挙がったのは「社会の動きに対する興味・関心が増した」「自分の考えを持つようになった」「家族との対話が増えた」の3つです。反応は「休み時間の会話が変わった」「同じ事象でも各氏の取り上げ方が違うのに驚いていた」などがありました。
NIEに対する意見など
最も多かったのは「もう少し継続的に実践できるとよい」という意見で、「年間を通して行いたい」という先生も多くいました。
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「実践校増え、活動の輪広がる 各地でNIE推進協議会が設立」
18地域でNIE推進協議会が設立されています。北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、東京、新潟、長野、福井、大阪、島根、山口、広島、香川、愛媛、宮崎、鹿児島の1都1道1府15県に設立されていました。
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「1996年度NIE実践者一覧 44都道府県218校に拡大」
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「実践校はいま 宮城県」
命の大切さ、住環境などをテーマに
河北新報社広報部長 佐藤敏明氏
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「日本のNIE授業を視察 韓国から言論研究所 安氏が来日」
韓国言論研究所の安奇徳研修局長が、日本のNIE事情視察のため、6月に来日し、10日に聖心女子学院初等科、13日に昭島市立瑞雲中の東京の2校でNIE実践を見学した。
韓国のNIEは3年前に本格的に始まり、小学校20、中学校15校で実践しているという。
聖心女子学院初等科では、岸尾祐二教諭による5年社会科の授業を見学。授業ではサッカーW杯の2002年日韓共同開催をテーマにNIE実践。まず、児童が自宅からもってきた新聞(6月1日から3日まで)を30分程読み、問題点や話し合いたい事柄について、手を挙げる。「開会式、決勝戦の開催国」「開催国の無条件出場権について」「北朝鮮の問題」など、次々に出されるテーマを教諭が整理し、児童に投げかけ、みんなで考え、意見交換が進む。皆自分の考えを伝えようと努める。話の中で地名・国名が出れば、すぐに世界地図を使い全員で確かめる。先生は議論の交通整理役。岸尾教諭は「開催までまだ時間があるので、長い時間をかけて考えていこう」と授業を締めくくった。
昭島市立瑞雲中学校では、鹿野川喜代美教諭が3年生国語でNIE実践。まず導入として3人の生徒が最近気になった記事の要約と感想を前に出て発表。ある女子生徒は、京都府の病院での安楽死事件をテーマに「本人に聞かないで安楽死させるのは人権無視だと思う」と意見を述べた。
その後、グループ学習で在京6紙の一面の違いを探したり、安楽死事件をテーマにした投書、論文などを探し、その記事が安楽死を肯定しているのか、否定しているのかなどを考えさせた。鹿野川教諭は安楽死事件について「大事な命の問題で結論は出ないが、考えるきっかけとしてほしい」と結んだ。
安さんは「自分で記事を探し、恥ずかしがったりしながらも自分の意見を発表している姿が印象的」と感想を語っていた。
NIE日誌(1996年3月~1996年6月)
編集後記
文部省の第15期中教審は近く提出する第一次答申の中で、次期教育課程改定に当たり、総合学習の時間設定を提案します。これは、国際理解、情報、環境のほか、ボランティア参加などについて総合的な学習、体験学習を行う場です。
新教育課程は、早ければ2003年度にも、完全学校週5日制とセットで実施されるとみられますが、この総合学習の時間にはぜひ、NIEを取り上げてほしい、と願っています。
(時事通信社 高橋 守)
後に「総合的な学習の時間」が設置されることにつながる、私にとっては初めての情報に触れたのはこの文章でした。