第11回 「新聞VS.テレビ―子供の新聞・テレビに対する意識から授業をつくる」『東京NIE推進委員会研究報告書 1991年度』(1992年6月発行)
1989年改訂された「小学校学習指導要領」で5年生社会科に「通信」に関する単元が設定されたことについては以前にも述べました。当時、「通信」と言えばその代表的なものは新聞とテレビでした。ところが、指導要領には「通信」に関するメディアを1つ選んで指導するようにという規定がありました。この指導要領に基づき発行された教科書はそのどちらかを選んで載せることになりました。新聞を載せた教科書は確か5社か6社発行していた教科書のうち「中教出版」と「帝国書院」だけでした。私はこのどちらか1つを選択して掲載することに当時から違和感を持っていました。メディアを比較検討しその違いを理解してこそそれぞれのメディアを活用することに繋がっていくと考えていました。1991年度5年生を担任しましたので、「新聞VS.テレビ」を子供の新聞・テレビに対する意識をもとに授業計画を立案し実践しました。
5年生社会科は両クラス81名担当していました。1991年12月16日に実施した「新聞とテレビについてのアンケート」(5年生81人)では、学校の日常の授業ではよく新聞を活用していることと、子どもも私が新聞好きなことを知っていることが影響したのか、「ニュースをキャッチするのに、新聞とテレビではどちらがいいと思いますか。」という質問では、新聞64人・テレビ16人(無回答1)の回答が、「子供にとって、新聞とテレビではどちらと友達になった方がいいと思いますか。」という質問では、新聞51人・テレビ30人という回答でした。ところが、「新聞社と放送局では、どちらを見学したいですか。」という質問では、新聞社19人・テレビ局62人という回答でした。子どもたちの本音が見えて面白かったです。
タイトルの「新聞VS.テレビ」はややオーバーな表現で、テレビの読み方も導入した新聞の読み方を模索したものでした。この5年生の子どもたちにとっては初めて本格的に新聞の読み方を学ぶので、時間的にテレビの読み方より新聞の読み方の方が多く時間をとっています。
1991年度版には表紙に次のような文面が入っていました。
東京NIE推進委員会
東京都中学校新聞教育研究会
東京都小学校新聞教育研究会
東京都私立初等学校社会研究会
東京学芸大学附属小学校NIE研究会
日本新聞協会NIE委員会
小学校部会での国立・公立・私立の連携が見られます。
1.研究課題
1991年度、5年生を担当してNIE授業の研究課題として「子供の新聞・テレビに対する意識から授業をつくる」ことを設定した。子供が考えていることから授業を構成してみようとしたものである。NIEを進めていく場合、私自身とかく教師主導の授業になりやすい傾向があった。今回、「子供の意識」を導入することにより、私自身のNIEにおける新たな視点を模索することを課題としたい。
2.新聞とテレビについてのアンケート結果(5年生)
3.「新聞VS.テレビ」授業過程
「新聞とテレビについてのアンケート」結果を、次のような授業過程に活用した。
※「新聞とテレビついてのアンケート」実施(1991年12月16日)
第1時 「新聞とテレビについてのアンケート」結果を読む みんなはどんな意見をもっているかな
第2時 新聞をのぞいてみよう(1)新聞のおもしろいところ1
「アンケート」
『毎日新聞』1992.1.13朝刊を一人ひとりに配布
第3時 新聞をのぞいてみよう(2)新聞のおもしろいところ2
「アンケート」
『毎日新聞』1992.1.13朝刊
第4時 新聞をのぞいてみよう(3)新聞のつまらないと思うところを克服1
「アンケート」
『読売新聞』1992.1.17朝刊を一人ひとりに配布
第5時 新聞をのぞいてみよう(4)新聞のつまらないと思うところを克服2
「アンケート」
『読売新聞』1992.1.17朝刊
第6時 新聞の読み方(1)
選ぶ
『朝日新聞』1992.1.21朝刊を一人ひとりに配布
第7時 新聞の読み方(2)
読む
『朝日新聞』1992.1.21朝刊
第8時 新聞の読み方(3)
考える
『朝日新聞』1992.1.21朝刊
第9時 新聞の読み方(1)
選ぶ
『毎日新聞』1992.1.28朝刊を一人ひとりに配布
第10時 新聞の読み方(2)
読む
『毎日新聞』1992.1.28朝刊
第11時 新聞の読み方(3)
考える
『毎日新聞』1992.1.28朝刊
第12時 テレビの読み方(1)
ニュースをどうみたらいいか1
アンケート⑤・⑥
「NHK」1992.2.3午後7時のニュースのビデオ
第13時 テレビの読み方(2)
ニュースをどうみたらいいか2
アンケート⑤・⑥
「NHK」1992.2.9午後7時のニュースのビデオ
第14時 ニュースをキャッチするのに新聞とテレビどちらがいいか(1)
討論会 準備
アンケート⑦・⑧
第15時 ニュースをキャッチするのに新聞とテレビどちらがいいか(2)
討論会
アンケート⑦・⑧
第16時 ニュースをキャッチするのに新聞とテレビどちらがいいか(3)
討論会
アンケート⑦・⑧
第17時 ニュースをキャッチするのに新聞とテレビどちらがいいか(4)
自分の意見をまとめる
アンケート⑦・⑧
4.「新聞の読み方」学習過程試案
3時間で新聞を丸ごとキャッチ(選ぶ・読む・考える)
5.「新聞VS.テレビ」子供の考え
1991年の頃は、メディアと言えば新聞とテレビが主流でそれにラジオが加わっていたような状況でした。インターネットが一般に広がるようになるのは10年先のことでした。このような時「新聞VS.テレビ」(前記にもありますが、少しオーバーな表現になってしまいましたが)という授業ができたことは私にとっても子どもにとっても楽しい活動でした。
現代のネット社会で、新聞の購読率・テレビの視聴率がこれほど低下することを全く予測することはできませんでした。未来を予測する力はどうすれば身に付くのでしょうか、今つくづく感じています。