第15回 「2年生の子供と一緒にNIE―コビーくんの国からオラ(こんにちは)―」『東京NIE推進委員会研究報告書 1992年度』(1993年7月発行)
私の2年生の子どもとのNIEは1988年度「ホドリの国からアンニョンハシムニカ」の実践が初めてになります。2年生の子どもを初めて担任した時のことです。ソウルオリンピック開会式の新聞を世界各国の新聞社の編集長に依頼して送って頂きそこから韓国の文化について学ぶ学習でした。
この学習とパンムンジョム(板門店)フィールドワークの様子は、note私立小学校研究所の「No.20 1988年9月17日ソウルオリンピック 子どもたちの研究『ホドリの国からアンニョンハシムニカ』 翌年パンムンジョム(板門店)へ」を参照して下さい。
https://note.com/pesri/n/n33ed2cd32616
2回目の2年生を担任した1992年は、前回の1988年のソウルオリンピックから4年後でバルセロナオリンピックが開催されました。この時も前回と同様オリンピックからスペインの文化を学ぶ学習に発展させました。
「2年生の子供と一緒にNIE―コビーくんの国からオラ(こんにちは)―」の実践を『東京NIE推進委員会研究報告書 1992年度』(1993年7月発行所収)からご紹介します。
1.研究課題
92年5月、新聞界の方々とアメリカのNIE事情視察を行った。メンフィスのコマーシャル・アピール紙の担当者との懇談で、ファミリーフオーカス(家族ぐるみでの新聞学習)が話題になった。毎週水曜日に「LARNIG LINKS」という欄でファミリー・フオーカスを進めている。その企画を集積した冊子を見てみると、写真を上手に使い、低学年の子供でもできるものでもあった。
92年の7~8月には、バルセロナオリンピックが開かれた。オリンピックは子供たちの関心がとても高い。ソウルオリンピックから、世界のいろいろな文字や韓国のことを学習したように、バルセロナオリンピックから、子供たちの目を広い世界に向けさせようと考えていた。
NIEと国際理解を結びつける試みとして「コビーくんの国からオラ(こんにちは)」というテーマを設定し、約9カ月の間断続的に実践を行った。小学校
低学年の子供たちがNIEを通して国際理解のきっかけをつくることができたかを研究課題とする(コビーはバルセロナオリンピックのマスコットキャラクターである)。
2.指導の試み
(1)バルセロナオリンピック開会式を報道した世界の新聞を集めて、見てみよう。
〈ねらい〉
世界各国の新聞社に手紙を書き、開会式を報道した新聞を送ってもらう。
〈学習過程〉
① スリランカの新聞を見て、新聞や文字についての関心を高める。
② 各国の新聞社に、バルセロナオリンピックの開会式を報道した新聞1部を送ってくれるように、子供が手紙を書く。
③ 英語での依頼状と子供の手紙を一緒にして、各国の新聞社に郵送する。
④ 送って頂いた新聞社にお礼の葉書を書き郵送する。
⑤ 各国の新聞を提示しその国を地球儀で示しながら見る。
⑥ 廊下の掲示板に、その国を示す矢印をつけた世界地図とともに各国の新聞を1週間交代で掲示する。
⑦ 掲示した新聞について、子供がノートに一言感想を書く。
44か国の新聞社に依頼状を送り、19カ国25の新聞社から新聞およびメッセージが送られてきた。送って頂いた新聞社は以下の各社である。
(2)バルセロナオリンピックから心に残った新聞写真を集めて、見てみよう。
〈ねらい〉
夏休み中に行われたバルセロナオリンピックの新聞写真から心に残ったものを一人ひとり集め、2学期に心に残った写真を出し合い、世界にはいろいろな人がいて、いろいろな建物・自然などがあることを考える。
〈学習過程〉
① バルセロナオリンピックの新聞写真を集める。
② 1番心に残った写真を友達に教えてあげよう。
特に次の人物・事項が話題になった。○コビーくんのモデルはパストル・カタラン犬 ○カール・ルイス(アメリカ)の走り幅跳び ○ヘンケル(ドイツ)の女子走り高跳び ○シェルボ(EUN)の体操 ○レドモンド(イギリス)の400mを倒れながら最後までがんばる姿 ○ブブカ(EUN)の棒高跳びの失敗 ○次回のアトランタオリンピックのマスコット、ワッティズイット ○開会式 ○閉会式
③ 心に残った写真を分けてみよう。
「がんばっている写真」「喜んでいる写真」「悲しんでいる写真」「残念な写真」「くやしい写真」「きれいな写真」に分けてみた。子供に新聞へ注目する視点を提供する試みである。
④ 心に残った写真を廊下に張る。
(3)カルロスさん(EFEスペイン通信)にインタビュー
〈ねらい〉
子供たちが関心を持ったスペインの文化、習慣、生活などについてスペインのドミンゲス・カルロスさんに子供たちが教室で自由にインタビュー。外国人とのコミュニケーションとスペインの面白さを考える。
〈主なインタビュー内容〉
○どんな授業がありますか。○子供はどんな遊びをしますか。○スペインには九九がありますか。○オリンピックをスペイン語で何と言いますか。○子供は何歳から学校に入りますか。○学校ではおやつがありますか。○1番人気があるスポーツは何ですか。○入学式は何月にあるのですか。○フラメンコの「オレッ」というかけ声はどんな意味ですか。○学校ではお弁当を持ってくるのですか。○ドッチボールはありますか。○日本で驚いたことは何ですか。
〈ある子供が書いたインタビューの様子〉
今日、スペインのドミンゲス・カルロスさんがきて下さいました。お友だちがカルロスさんに「スペインには九九がありますか」と聞いたので、カルロスさんは「ありますよ」とおっしゃって、数字の読み方と×と=を教えて下さいました。まず1がウノで、2がドス、3がトレスで、4がクアトロで、5がシンコで、6がセイスで、7がシエテで、8がオチョで、9がヌエベで、10がディエスで、×がポルで、=がイグアルだそうです。
カルロスさんがれいのしきを書いて下さいました。そのれいのしきはどういうのかというと、3×2=6です。トレス ポル ドス イグアル セイスです。カルロスさんがお友だちに「言ってみてください」とおっしゃったので、お友だちが「トレス ポル ドス イグアル セイス」とじょうずに言えました。つぎに、スペインだけにある文字を教えてくださいました。
(4)世界のニュースをキャッチ
〈ねらい〉
冬休みから世界のニュースを新聞写真でキャッチすることにした。今、世界ではどのようなことが起こっているのか、子供なりに考える。
〈子供たちがキャッチした新聞写真〉
○イギリスでのブレア―号の原油流出 ○カンボジアのバンテアイ・チュマール ○ケニアのバレーボール普及青年海外協力隊員 ○ブッシュ大統領のソマリア訪問 ○ソマリアのスラムで栄養失調で動けない少年 ○オランダ機がポルトガルで墜落 ○ボスニア・ヘルツェゴヴィナからベルリンへ逃れてきた避難民親子
その文字はワープロにもないそうです。Ñ」Ñ」という文字でした。その文字はワープロにもないそうです。 (5)学習発表会「コビーくんの国からオラ(こんにちは)」
〈ねらい〉
学習したことのまとめとして、学校行事の学習発表会で2年生全員が発表する。」という文字でした。その文字は
ワープロにもなうです。
3.学習の評価と今後の課題
ここでは1つの観点から評価を試みる。それは2年生の子供による評価である。国際理解は子供の学習がきっかけになり、生涯にわたって考えていくべき課題であると思う。子供にとって、学習が楽しくなければ継続して考えていくことが難しいだろう。一つひとつの実践に学習の楽しさがあったかどうかを子供に評定してもらうことにした。
①バルセロナオリンピック開会式を報道した世界の新聞を集めて見てみよう。
②バルセロナオリンピックから心に残った新聞写真を集めて見てみよう。
③カルロスさん(EFEスペイン通信)にインタビュー
④世界のニュースを新聞写真でキャッチ
⑤学習発表会「コビーくんの国からオラ(こんにちは)」
それぞれの活動について
5(とてもおもしろい) 4(おもしろい) 3(ふつう)
2(あまりおもしろくない)1(ぜんぜんおもしろくない)
というように評定してもらった。その結果は以下のようである。( )内の数字はクラスの人数で、39名による評定である。
5 4 3 2 1
① (15) ( 6) (14) ( 3) ( 1)
② (11) (12) (11) ( 4) ( 1)
③ (24) (11) ( 3) ( 1) ( 0)
④ (12) ( 8) (11) ( 7) ( 1)
⑤ (21) (13) ( 5) ( 0) ( 0)
カルロスさんへのインタビュー、まとめとしての学習発表会が子供たちには楽しかったようである。新聞写真への関心を高める工夫が今後の課題になる。次のような子供の感想がある。こんな子供を育てたいものである。
「夏休みのしゅくだいで、オリンピックのしゃしんをきりぬくまで、新聞はテレビらんしか見たことがありませんでした。むずかしい字ばかりで、見る気がしなかったからです。でも、しゃしんをさがしていると、字は読めなくても、おもしろいと思えてきました。なぜなら、しゃしんが、せかいのいろいろなことを知らせてくれたからです。オリンピックでがんばった人のことや、かってうれしかった人や、まけてくやしい顔のしゃしんを見ると、字を読まなくても、何がおこったのかがすぐわかりました。スペインのけしきや、たてものも、しゃしんで知りました。ソマリアのことも、新聞でしゃしんを見たら、本当にたすけてあげたいと思いました。しゃしんを見ながら、新聞を読むようになって、せかいや日本のできごとにきょうみをもつようになりました。」
『東京NIE推進委員会研究報告書 1992年度』(1993年7月発行)には、「『研究報告書』(1989年~1991年度版)所収論文一覧」が掲載されていました。個々の教師が実践する際に、NIEの先行研究がどれだけ捉えられているのか疑問に思っていた筆者にとって、このような「所収論文一覧」の掲載はNIEを研究的に推進することの初めの一歩として大きな役割を果たしたと当時考えました。