第17回 「Jリーグから社会を探ろう―NIEにおけるJリーグの学習材としての可能性を探る―」『東京NIE推進委員会研究報告書 1993年度』(1994年7月発行)
第16回での『スポーツ記者を追いかけろ』(1993年11月発行)の取材過程、出版書籍を通して5年生に「Jリーグから社会を探ろう」の実践をしました。その実践をもとに「Jリーグから社会を探ろう―NIEにおけるJリーグの学習材としての可能性を探る―」を『東京NIE推進委員会研究報告書 1993年度』(1994年7月発行)に執筆しました。その研究を報告致します。
1.研究課題
93年5月に開幕したJリーグは、さまざまな反響を呼び起こした。流行語大賞にもなったこのブームは、一つのスポーツという範疇だけではなく、社会のいろいろな現象について考えさせてくれた。国際的なスポーツ・サッカー、外国人選手の多民族化、地域に根ざしたチーム、キャラクター商品の爆発的な売り上げ、コマーシャルの大きな変化、テレビ視聴率への影響、子ども・若者からの絶対的な人気などなど。担当していた5年生の女子83名に、見るスポーツで好きなものと、好きな選手を聞いてみた。好きなスポーツは1位Jリーグ、2位ラモス、3位大相撲。好きな選手は1位若ノ花、2位ラモス、3位三浦知良であった。
このように、社会のいろいろな現象について考えさせ、子どもに人気のあるJリーグは一つの学習材になり得ると考える。国際理解教育、消費者教育、地域社会を考える教育やJリーグの取材過程を追究すれば通信の学習材にもなり得る。また、Jリーグを通して新聞に関心を持ち、新聞を習慣的に読むきっかけができるのではないかとも考える。
本実践は、NIEにおけるJリーグの学習材としての可能性を探るものである。
2.学習過程
年間計画に位置付け子どもたちは学習した。
1学期(2時間)Jリーグの取材、紙面を通して新聞の読み方を考える。
(Jリーグの前に、プロ野球と大相撲にそれぞれ2時間の配当をする)
第1時 Jリーグの取材過程をスライド・資料で探る。
第2時 取材によってできた紙面を読んでみる。
以後、Jリーグ関連の記事に注目させる。
2学期(2時間)「Jリーグの研究」(グループ研究)のテーマを設定し、選択する。
第1時 テーマを設定する。
第2時 グループでテーマを選択し、本・雑誌・新聞などに注目する。
以後、関連資料を収集する。
3学期(6時間)関連資料を読み取り、「Jリーグの研究」をまとめる。
第1・2時 Jリーグ関連資料を読み取る。
第3~6時 Jリーグの研究をまとめる。
3.どんな学習が展開されたのか
1学期の子どもたちは、ほとんど新聞を読むということはしていない。最初から無理に読ませることはせず、テレビのニュースから情報をキャッチし、朝や帰りの会にお互い発表していた。少し新聞に目を向けようと考え、子どもたちに人気があるスポーツに注目した。スポーツ記者やカメラマンの1日を追い、できた紙面を読みながら活字に親しんでもらおうというものである。読売新聞社の運動部・写真部の方のご協力を頂き、プロ野球・大相撲・Jリーグについて東京ドーム・両国国技館・国立競技場で、取材しているところを私も取材させて頂き、そのようすをスライドにした。各スポーツに2時間ずつあてたが、開幕直後ということもあり、Jリーグの取材過程が学習に子どもたちは1番関心を持っていた。
1時間目は記者の塩見さん、カメラマンの石原さんの取材過程のスライドを見せながら、試合前の仕事、試合中の仕事、試合後の仕事、社に帰っての仕事について学習するとともに、試合メンバー表・ハーフタイム時のコメントシート・公式記録・他の競技場での試合メンバー表を一人ひとりに配布し、どんな内容が書いてあるのか読み取っていった。特に子どもたちは試合メンバー表から、いろいろな国から外国人選手が来ていることに気が付いた。
2時間目は、塩見さんや石原さんの取材によってできた翌日の紙面を、4人のグループに1部ずつ配布しどのような記事であるか読み取るとともに、他の新聞ではどのように扱っているのか記事の比較も行った。
Jリーグの取材過程を学び、記事に触れた子どもたちの中から、Jリーグ関連記事について収集し発表するものが出てきた。Jリーグ関連記事について収集し発表するものが出てきた。Jリーグの試合結果だけでなく、チアホーンの騒音問題、キャラクター商品やコマーシャル、町おこしなどの話題も収集していた。
2学期の子どもたちはJリーグ関連の話題を中心としながらも、徐々に他の話題にも触れるようになってきた。「Jリーグの研究」がJリーグの試合だけではなく、その周辺の話題を探ることにより、社会のいろいろな現象が見えてくることに子どもたちも気が付いてきた。
1時間目はどのようなテーマが設定できるか、一人ひとり考えさせ意見を言い合い、次のような10のテーマにまとめてみた。
①【サッカーの歴史とJリーグの誕生】
②【ワールドカップと世界のサッカー】
③【Jリーグチームのふるさとは】
④【Jリーグ外国人選手のふるさとは】
⑤【ジーコ、リトバルスキー、リネカー、ラモス】
⑥【Jリーグキャラクター商品&コマーシャル】
⑦【Jリーグの人気の秘密】
⑧【JリーグVS.プロ野球】
⑨【Jリーグのプラスとマイナス】
⑩【サッカーの裏側を探る】
2時間目はグループでテーマを選択し、新聞だけでなく本や雑誌などの資料に注目させ、子どもたちが持っている資料からどのような研究内容ができるか、どのようにまとめることができるかを話し合い、それぞれのグループでさらに資料を集めることになった。
3学期に入り子どもたちが収集した資料とともに、私からもそれぞれのグループのテーマに関連した資料を配布した。
1・2時間目は関連資料を読み取り、資料を選択することになった。多くの資料からそれぞれのグループの研究内容に合ったものを選ぶことも大切な作業である。グループによっては独自にアンケート調査の方法をとるところもあった。
3~6時間目は資料を活用して研究をまとめる時間である。いくつかのグループの研究内容の一部を紹介しよう。
【Jリーグチームのふるさとは】
○Jリーグチームのふるさと地図
各チームのキャラクターや球場周辺の地図を付けていた。
○Jリーグチームのふるさとの方言
関東地方、中部地方、近畿地方、中国地方、九州地方の「おはよう」を比べる。
○鹿島はどんな町
【Jリーグ外国人選手のふるさとは】
○Jリーグ外国人選手のふるさと地図
1993年にJリーグ各チームに登録された外国人選手のふるさとを調べた。
アメリカ・エルサルバドル・ブラジル・パラグアイ・アルゼンチン・韓国・中国・ベラルーシ・ブルガリア・チェコ・スウェーデン・ドイツ・オランダ・イギリス
偕成社『世界の子どもたち』を使って、アメリカ・ブラジル・韓国・中国・チェコ・スウェーデン・ドイツ・イギリスの子どもたちの生活及びその国の出来事を新聞からひろっていた。
【Jリーグの人気の秘密】
○小学生に聞きました。Jリーグに関心がありますか?
選択肢も入れたアンケート用紙を作成し、初等科の4・5・6年生に回答してもらった。245名の回答のうち
〈関心がある〉180名
理由(3つ選択)
①とにかくおもしろい 57%
②選手が好きだから 50%
③自分自身サッカーが好きだから 41%
〈関心がない〉 65名
理由(3つ選択)
①ぜんぜんおもしろくないから 51%
②うるさいから 35%
③ルールがわからないから 34%
4.学習の評価と今後の課題
担当していた社会科2クラス(85名)の子どもたちに、1学期からのJリーグの学習が楽しかったか5段階の評価をしてもらった。
「5」とても楽しい 17名(20%)
「4」楽しい 56名(66%)
「3」ふつう 12名(14%)
「2」あまり楽しくない 0名
「1」全然楽しくない 0名
学習をしてのこんな子どもの感想がある。
「私は5年生になるまで、新聞は全くといっていいほど読みませんでした。でも、Jリーグの勉強をして、少しずつスポーツ面を見るようになりました。Jリーグの勉強で私が一番いいと思ったことは、学習発表会に向けてのJリーグの研究です。自分で資料を集めて、みんなで協力してまとめていくからです。その資料は、本やビデオ、新聞があります。特に新聞を使ったので読み始めるいいきっかけになりました。そして、次にいいと思った勉強は、Jリーグ(新聞のスポーツ面)の記者の方についてです。その方がどんなふうにしてJリーグについて書くのかということを知るとさらに興味がわくからです。今は、世界のニュースにも気をつけることができます。でも、正確にニュースをつかむことができないので、Jリーグの資料集めのことをいかして、正確にニュースをつかみたいと思います。」
すべての子どもがこのような感想をもったわけではないが、多くの子どもたちが楽しいと感じたようであり、新聞を読むきっかけになったようである。
Jリーグという切り口でNIEを進めていく上で、学習材としての多様な開発など今後の課題は多いが、取材過程を通しての通信の学習、外国人選手のふるさとの文化や生活・できごとを通しての国際理解学習、キャラクター商品やCMをを通しての消費者としての学習、鹿島・市原・清水などを通しての地域社会の学習など、NIEにおけるJリーグの学習材としての可能性は十分にあると考える。