第27回 日本新聞協会「NIEニュース」第8号(1997年1月)発行
【1頁】
「生きる力をはぐくむNIE」
中野重人氏 国立教育研究所教科教育研究部長
NIE初期に教育学研究者としてその推進に貢献された一人が中野重人氏でした。当時、この原稿を読みある箇所に大きく賛同した記憶が呼び起こされました。全文を引用します。
新聞を教材として活用するということは、古くから行われていたことである。しかし、その取り組みは、教師の個人的な趣味や思いつきにとどまっていたというのが、およそこの10年前までの実態であった。
NIE活動が提唱されたのは、1985年の新聞大会であった。以後、この活動はパイロット計画等の推進もあって、小・中・高の各学校種にわたって、全国的に取り組まれるになり、大きな成果をあげていることは、大変うれしいことである。
私は、文部省在職中から、この活動にかかわり、それを支援してきた一人である。なぜ、NIEかは私に言わせれば、2つある。
その1つは、いわゆる情報化社会に生きる力を育てることに資するからである。とりわけ、活字離れの子どもたちに、NIE活動は、重要な教育的役割を果たしているのである。生きる力が、21世紀への教育課題であることは、すでに中教審答申が指摘したとおりである。
その2つは、子どもたちと教師に、自分で考えることの大切さと、自分なりのものを創ろうとするアタック精神を育てることである。とりわけ、教師にとって、教材開発は教職の専門性にかかわる重要事である。教科書を教えるだけの教師では、もはや通用しないからである。
このような意味において、NIE活動が重要な意義をもっていることは、正しく理解されなければならないのである。ところが、NIEの活動に参加している人の中にも、次のようなつぶやきを、ときに耳にすることがある。「NIE活動って、新聞社の手先だっていわれるんですよね。」と。
NIE活動にかかわりのない教師やかかわろうとしない教師の多くが、このように考え、発言しているのかもしれない。もし、そのような状況があるとするならば、NIE活動の正しい発展のために、看過するわけにはいかないのである。
では、このやる気をそぐ言動にどう答えるのか。それには抽象論は無駄であり無意味である。要は、実践例で答えることである。この実践のどこが駄目で、どこに問題があるかと。
NIE活動は、これまで数多くの実践を生み出してきている。それは、全国の小学校、中学校、高等学校において取り組まれたものであり、その実践報告書の内容は多様である。その中には、子どもたちが自ら取り組んだ調べ活動や表現活動、また、教師の教材化の視点や工夫など、注目すべき実践が少なくない。
言うまでもなく、これまでのNIE実践事例が、すべて良いといっているのではない。むしろ、課題を多く抱えているといった方がよい。だからこそ、やり甲斐があるといえるのである。
ただ、NIEの実践は、各教科や道徳、特別活動等にわたって多様であり、また、総合的な学習活動として展開してものもある。NIEの活動が、生きる力をはぐくむ21世紀への教育課題に迫るものとして、誇りと自信をと展望をもって力強く展開されることを期待している。
中野氏の次のような「NIEの活動に参加している人の中にも、次のようなつぶやきを、ときに耳にすることがある。『NIE活動って、新聞社の手先だっていわれるんですよね。』と。」いう話を直接私に声をかけた人はいませんでしたが、他の人から何回か聞いたことがありました。
その対応としての「それには抽象論は無駄であり無意味である。要は、実践例で答えることである。この実践のどこが駄目で、どこに問題があるかと。」という言葉には当時うなずいたものです。
【2~3頁】
「各地の研究大会から」
1996年の11、12月に各地の推進組織が主催した公開授業、研究大会の概要を紹介する。
岡山、茨城、大阪、東京
【4~5頁】
「新聞を知るツールに 新聞協会ホームページ紹介」
「NIE実践ヒント!『NIEヒント集』の試みとホームページ開設」
東京都立永福高校 瀬野 光孝氏
【6頁】
「日本の教育風土に合ったNIE模索―11年間の歩みと展望―」
日本新聞協会NIEコーディネーター 妹尾 彰氏
昨年末、念願のNIE推進組織が全国47都道府県すべてで発足した。NIE推進協議会(教育界と新聞界の代表で構成する自主運営組織)も20都道府県に達し、NIE活動もここ2、3年来、急速かつ活発に全国規模で展開されはじめてきた。その状況を受けて、第1回NIE全国大会(文部省後援)が昨年7月26、7の両日、東京内幸町の日本プレスセンタービルで開かれ、全国のNIE実践者、NIEに関心の深い教育関係者と新聞界の代表ら265人が参加した。
ここで今日までの歩みをふり返りながら、今後の課題を提言してみたい。
1985年11月にNIEを調査、研究する専門部会が日本新聞協会に創設され、日本で初めてNIEの活動が始まった。わが国で教師が授業に新聞を活用することは特に目新しいことではないが、新聞界が教育界に向けて提唱したNIEは本質的に次の2点で異なる。1つは記事のコピーではなく、原則的に新聞そのものを活用することであり、2つには新聞を複数紙で活用する点である。それは、若者の活字離れや社会に対する無関心が顕著になってきている今日、新聞を教科書の補助教材として活用することのほかに、新聞に親しむことを通じて社会への関心を高め、情報を読み比べることによって自己の意見を確立するさせるためでもある。
当時、教育界の反応は“総論は賛成だが、実現は難しいのではないか”“これはある種の教育改革である”の声が強かった。一方新聞サイドからは“紙面改革につながるもので課題が多い”との指摘があった。さらに、新聞社間激しい競争の中で新聞各社が協力して推進するNIEが日本で定着するか否か、正直なところ危ぐの念が強かった。
しかし、11年を経た今日、教育界と新聞界の協力によって状況が大きく変わってきた。教育サイドからは、今日の国際化時代・情報化時代にあって主体的に情報を選択・活用する能力を培う、教材としての新聞の有用性が認識されてきたし、各地で開催されるNIEセミナーなどでも、“今日の教育にとってNIEは不可欠である”と、その重要性を強調する教育関係者が増えてきた。また、新聞サイドでも、今日の若者の活字離れの中で新聞に親しみ活用するNIEに、協力して推進しようとする機運が強くなってきたことも事実である。
89年から始まった教師のNIE実践も年を追うごとに、また実践者が増えるにつれて活用方法も多岐になり、内容も深まってきた。新聞に親しませることから教科の補助教材としての効果的活用、さらには情報の読み比べへと発展することで自己の感想や意見を言葉や文字で表現する能力が徐々に付いてきたと報告する教師は多い。
NIEの伸展を受けて、日本新聞協会は96年度からNIE基金(10億円)を設立し、本格的なNIE推進事業に入った。全国大会の開催や地域ごとの研修会に対する助成の他に、①実践教師に新聞を提供する、②新聞理解のためのオリエンテーションに協力する、③外国のNIE視察に対して助成を行うなどが大きな柱。このため今年度の参加は大幅に増え、44都道府県218校となった。
今日まで日本の教育風土に合ったNIEを模索しながら推進されてきたが、今後の課題もまだ少なくない。地域に密着したNIEを確立するための推進協議会づくりも6割はこれからである。実践者を増やすためのNIEセミナーも積極的に開催しなければならない。同時に、とにかく新聞が提供されている期間だけの一過性の実践の実態をどう恒常的なものにしていけるか、教育界・新聞界に課された問題は多い。
現在のNIEは一部の教師の情熱に支えられて進展してきている面もある。多くの教師が実践するには、カリキュラムの中での位置づけや新聞購入費問題、教育行政の協力など環境整備が必要だと思う。教育改革が叫ばれている今日、NIEがその打開策の1つとして教育界に根付くことを期待したい。
日本新聞協会初代NIEコーディネーターとしての妹尾彰氏の11年の回顧には頭が下がる思いです。私も側面から一緒に行動してきて妹尾さんのご苦労は並大抵なものでないことを感じていました。その後、2000年7月に設立された日本NIE研究会の初代会長に就任されました。その研究会の過程でも一緒に行動させて頂き、多大な役割を果たして下さいました。本当にありがとうございました。
【7頁】
「NIEを実践してみませんか」
「海外情報 国際NIE大会 サンパウロで開催」
「海外情報 米国NIE大会 今年はオーランドで」
【8頁】
「実践校218校対象に新聞接触・NIE効果調査を実施」
「全国47都道府県にNIE推進組織」
「今夏、広島で第2回NIE全国大会開催」
「3月に実践者対象の米国NIE事情視察」
一昨年に続いて、3月26日から4月2日までの8日間、NIE実践教師を対象に米国NIE事情を視察することになった。予定では、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンの3都市の学校、新聞社を訪問し、NIE授業などを視察する。教師による米国事情視察は2度目。今回は北海道から鹿児島まで、全国から参加者は21人と決定、NIEの広がりを裏付けるものとなっている。
私も参加しました。
「小、中、高校にNIE研究会―大阪」
「広島、東京で広報紙を刊行」
各地の動きから
編集後記