第9回 NIE起点になる授業をもとに、1991年 拙著『新聞のほん』を出版する
当時、NIEを進める教師の数は少数でした。ですから子どもたちが学校でNIEの授業を受ける可能性はとても低かったのです。それからどの家庭でも新聞を購読しているわけではありません。一時的に新聞を活用してもその後継続して積み重ねていかないと新聞のもつ教育的意義を生かすことは難しいことと考えていました。
世間の一部では「NIEは新聞販売の促進を助長する」(販促の助長)というような声もありました。そのことによりNIEから離れていく教師の姿も見ることがありました。当時一緒にNIEに取り組んでいた中学校の先生から、保護者会では授業で使う新聞代を説明し徴収させて頂いたという話を伺ったことがあります。私も授業で一人一部もっての学習では保護者が負担する教材費から徴収させて頂きました。保護者への理解を図ることはとても大切なことでした。
学校で一人一部またはグループで一部新聞をもっての学習は簡単ではないのです。ですから、私は子どもたちが図書室や公共図書館で読むことができる「新聞ガイド」のような本があり、5年生社会科の「通信・運輸」単元での新聞の学習や家庭など身近に新聞を読むことができる環境を生かした取り組みも必要だと考え、出版社の協力を得てNIE授業をもとに執筆した『新聞のほん』(リブリオ出版、1991年発行)を出版することができました。
本書の目次は以下のようです。
Ⅰ 新聞を開いてみよう
Ⅱ 新聞となかよくなろう
見出しをキャッチ 写真をキャッチ 数字をキャッチ イラストをキャッチ
おもしろ広告をキャッチ 4コママンガをキャッチ テレビ欄をキャッチ
新聞のまちがいをキャッチ
Ⅲ 新聞と遊んでみよう
Ⅳ 日本のニュースを新聞に
ニュースが原稿になるまで 原稿が新聞になるまで 日本のニュースを世界に送る
Ⅴ 世界のニュースを新聞に
特派員と外報部 特派員に手紙でインタビュー 通信社のはたらき
Ⅵ 新聞あれこれ
専門新聞 地方新聞 世界の新聞 新聞トピックス
いくつかの章について見ていきましょう(一部です)。
Ⅰ 新聞を開いてみよう
「スポーツ」「科学」「家庭」の話題を取り上げています。
Ⅱ 新聞となかよくなろう
「新聞のまちがいをキャッチ」です。メディアリテラシーにとって新聞にも間違いがあることを理解しておくことはとても大切です。1989年の「新聞と友だちになろう」の授業時に偶然にも朝日・毎日・読売3社で大きな間違いが発生しました。3社とも記事の掲載を許可して頂きました。
「朝日新聞」のサンゴ礁を記者が自分で傷つけ「ねつ造」した記事でした。後に「おわび」も出されメディアの在り方が大きく問われた事件でした。
グリコの江崎社長が誘拐された事件で犯人が取り調べを受けたという毎日新聞の「誤った記事」でした。後に「行き過ぎ紙面を自戒」の記事が出されました。事件は未解決時効を迎えました。
3幼女を殺害したとされる宮崎勤のアジトがあったとされる読売新聞の「誤った記事」でした。後に「おわび」が出されました。
Ⅲ 新聞と遊んでみよう
子どもたちが新聞を使って自由研究を試みた作品を紹介しています。
このページでは「政治を追いかける」「いくつかの新聞をくらべる」「新聞とテレビをくらべる」をテーマにした子どもたちの研究の具体例を掲載しています。
Ⅳ 日本のニュースを新聞に
ここではニュースが原稿になるまでを「毎日新聞」編集局社会部を通して、原稿が新聞になるまでを「産経新聞」浦安工場を通して追いかけています。
Ⅴ 世界のニュースを新聞に
ここでは授業で子どもたちが世界各地の特派員に手紙を出して、その役割や仕事のようすをお聞きしたものを基にして掲載しました。
掲載させて頂いたのは以下の方です。
波津博明記者(読売新聞、リオデジャネイロ特派員)
黒田勝弘記者(産経新聞、ソウル特派員)現在もソウルに滞在されて報道されているようです。よくテレビで拝見します。
伊藤友治記者(毎日新聞、ジンバブエ・ハラレ特派員)
村上宏一記者(朝日新聞、テヘラン特派員)
山本進記者(毎日新聞、ニューヨーク特派員)
Ⅵ 新聞あれこれ
ここでは「あれこれ」の1つとして地方新聞の「東京新聞」を取り上げます。
子どもたちがこの『新聞のほん』を読み取り、新聞を読んだり新聞で研究したりすることにつながっていけばいいなという思いで出版しました。1991年の33年前の出版ですが、今でも何かのヒントが提供できましたら嬉しいです。
この本は小学生を対象にした子ども向きの本で、私が一人で執筆した拙著になります。幸いなことに私の初めての単著に、元文部大臣の永井道雄氏が推薦文をお書き下さり推薦して下さったことです。「新聞と友だちになろう」の授業と『新聞のほん』の出版はその後の私のNIE実践と研究の原点になる貴重な経験でした。